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第20話 天然

last update Last Updated: 2025-05-14 13:10:36

 義妹と私は半年しか生まれが違わない。

 つまりフェリシアがお母さんのお腹にいた頃にはもう、父は愛人とよろしくやっていたということだ。

 控えめに言ってクソである。

 私は前世成人女性の記憶があるからいいものの、本当に幼かった『フェリシア』はかわいそうすぎる。

「そんな事情があったとは……」

 最後に軍団長が深いため息をついた。

「承知した。きみの希望を聞き入れよう。フェリシア嬢がここに残ってくれるのは、喜ばしいことだからな」

「ありがとうございます……!」

 これからもBLパラダイスで暮らせる!

 そう思うと嬉しくて、はらりと涙がこぼれてしまった。

 なんか男性三人が絶句しているが、なんじゃ。

 私は涙をさっと拭うと、笑顔を浮かべた。

「今後もメイドのお仕事、頑張りますね。それに光の魔力の練習も。私の力がゼナファ軍団に役立てるなら、何だっていたします」

「あぁ、頼んだ」

 話は終わった。一礼して部屋の外に出ると、廊下でメイドのみんなが待っていた。

「軍団長のお話、どうでしたか?」

 リリアが心配そうに聞いてくるので、私は微笑んだ。

「帝都に帰らないかと言われたけど、断ったわ。だって私、この町とみんなが大好きなんだもの!」

「フェリシア! あんたって子は、もう!」

 メイド長がぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。

 他のメイドたちに囲まれて、笑いあった。

 周囲を見渡せばBL天国。そして腐女子仲間。萌えはたっぷり、友だちたくさん。暮らしやすくてご飯はおいしい。仕事も執筆も頑張っちゃう。

 あぁ、幸せだなあ!

 心からそう思って、みんなと一緒に笑い続けた。

+++

【三人称】

 フェリシアが辞した執務室にて。

 軍団長とベネディクト、クィンタは彼女の言葉と態度に深く心を打たれていた。

「小さい頃から家族に疎まれて、それなのにあんなに健気で。いい子すぎるだろ、フェリシアちゃん」

 クィンタが言えばベネディクトもうなずいた。

「この要塞町は辺境で軍団兵の拠点。帝都育ちの令嬢が住むような場所ではない。けれど彼女は雑事を率先してこなし、嫌な顔ひとつしない。ましてやあの聖女の力。傷つき血まみれになったクィンタを迷わず救った、神々しい姿」

「ああ。あれだけの瘴気がきれいさっぱり消えたんだ。今でも信じられねえよ。ぞっとする瘴気が暖かい光で消し飛んで、命を繋いでくれた」

 
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